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インタビュー#2 元村祐子さん

「ある日、銀行に行ったら預金残高がゼロで。おかしいなと思って調べたら、何と差し押さえに遭っていたんです」と、事も無げに話すのは元村祐子さん42歳。その訳はと言うと、国民健康保険料を支払って下さいと言う郵便物が届いていたにもかかわらず、さらに督促状が届いていたにもかかわらずそれに気付かなかった。いや、気付いていたかもしれないが、記憶から完全に抜け落ちていたのだ。「慌てて先方に電話したら、支払う意志がないものと見なして差し押さえたのだと。いえいえ私は払う気満々ですと言ってもそう簡単に解除は出来ないと言う。そこでせめて1万円でもと粘りに粘ってようやく解除してもらえたんです」

彼女のこうした失敗は数え切れない。辞めざるをえなくなった職場は実に11にも及ぶ。「どの職場も余裕がなくて、私のような人間が失敗を繰り返すと皆がその尻拭いをしなくてはならない。あの子に関わったら巻き込まれるから関わらんほうがええでと。もうそうなると居づらくなって」

彼女が「広汎性発達障がい」と診断されたのは38歳のとき。彼女はこれで「楽になった」と言う。それまで相次ぐ失敗は自分の努力不足が原因と思っていたものがそうではなかったことが分かったからだ。しかし、そのことを職場でカミングアウトするとこう言われた。「そんな人がこの職場にいると分かるとイメージが悪くなる」と。そこも辞めざるをえなかった。

そして今の職場にたどり着いた。知的障がい者施設だ。彼女はここで入居者たちの健康管理を行なっている。ここでも自らが発達障がいであることを明らかにした。果たしてその反応は?「言ってくれてありがとうと言ってくれたのです」彼女はそう言って微笑んだ。この職場でも失敗はある。けれどここではこうも言われる。「人間がするのだから間違いはある。あなたが発達障がいだからミスするのではない」と。元村さんは今日も元気にこの職場で働いている。